ごめんで済んだら○○は要らない…

         〜789女子高生シリーズ
            『
相変わらずで ごめんあそばせvv』後日談
 


下着泥棒に、書店やコンビニでの万引き、
電車やバスの中、ついついうたた寝した人の荷物を持ち去る置き引きや、
あろうことか懐ろから財布を抜く掏摸行為までと。
1つ1つは微罪ながらも、犯件数は相当なもの、
しかも結構な“戦利品”を抱えていた窃盗犯が逮捕された。
発端となったのが匿名の密告という代物だったその上、
その対象が何とも微妙な物品だっただけに。
扱いはあくまでも極秘理にという慎重さを必要とされたのは言うに及ばず、
もしかして立件は難しいのではないかとさえ思われたものの。
大量の物的証拠と それへと添う容疑者からの詳細な自供から、
検察への起訴と容疑者の送致という形で落着した旨、
担当の捜査二課から報告されて、

 「さようか。急な事案を割り込まさせて済まなんだな。」
 「何の、島田さんが殆ど片付けてくださった代物、
  こっちとしちゃあ、楽して手柄の数が増えたよなもんですって。」

楽してはさすがに言い過ぎか、
いやいや・ごほんごほんと わざとらしい空咳をしつつ、
そちらの担当班の係長さんが“では…”と辞去したのを見送って、

 「今のって、あの一件でしょう? か、警部補。」
 「ああ。」

何のと言うのも憚られるからというあたりには遺漏なぞないけれど、
直属上司を相変わらずに名前で呼び掛かっちゃあ、
役職へ言い直している佐伯刑事なのへ。
上々の首尾に終わったには違いないこと、
悪い気はせぬままなのだろ、お髭の警部補殿が うむと返す。
桜や桑の木がそりゃあ瑞々しい新緑に塗り変わっているお堀端を、
至近の足元、正に眼下に見下ろす格好の此処は。
皇居の桜田門前に位置する警視庁の、
やや上階に設けられたる捜査課関係の詰め所フロア。
清潔なデスクブースが整然と居並んでいる風景は壮観で、
どちらの最先端企業のプレスルームでしょうかと思えるほどかも。
警視庁というのは、つまりは都の道府県警なのであり、
日ごろ日常の地域ごとの警邏や違法行為への取り締まりを執行し、
市民生活を支える所轄署が対処するには、
あまりに残虐で的確な手配への緊急性が必要とか、
規模が大きい、
若しくは他地域へも波及しているような広域性のある事件への、
迅速かつ広角的対処を効率的に行うため。
専任捜査本部を立ち上げたり、
現地へ専従捜査員を送り込んで指揮を執ったりする、
日本版の広域連邦警察署といったところ。
ぶっちゃけ、区役所を幾つも統括しているのが市役所で、
幾つもの市役所を統括しているのが県庁なのと一緒である。

 「一緒は言い過ぎぞ、筆者殿。
  区役所、市役所独自の裁断や権限が利くことも多々あろうからの。」

あ、そうでしたね。(ドキドキ)

 「……勘兵衛様、注意するに事欠いてそっちですか。」

あと、テレビドラマなぞでは、
レギュラー出演者たちを
偉そうに顎で使う鼻持ちならないエリートが現れちゃあ、
実情も知らないくせに型通りの決めつけで捜査を強引に進め、
結局は的はずしなことばかりしでかしちゃあ被害者も増やしたりして、
こんの無能っとお茶の間の顰蹙を買っていたりもするのだが。

 「あれってどうなんですかね。」
 「さてな。そういう偉そうな刑事が多い時期もあったのだろうて。」

……じゃあなくて。(こんのおタヌキ様がたは…。)
大窓から見渡せる皇居外苑もまた、
様々な梢へ新しい葉が次々萌え出る頃合いで。
その重なりようから 陽のあたらぬ位置であるにもかかわらず、
若葉ならではな柔らかい色合い、
発色のいい明るい黄緑が集まる辺りは
そこだけ陽の恩恵を受けているかのように見えもして。
そんな癒しの緑を見渡しつつ、
今はちょうど手が空いておいでなものか、
備え付けのサーバーで淹れたコーヒーを上司の分まで運んで差し上げ、
ほうとしみじみした吐息をついた佐伯刑事であったりし。

 「穏便に処理されて良うございましたね。」
 「うむ。」

犯罪は犯罪だから、なかったことには到底出来ぬ。
出来なかないとする“超法規的”な云々を訊かないじゃあないが、
こたびはそんなものを持って来るよな大それた代物でなし。
むしろ、わざわざ そうと対処する事情を
あちこちで繰り返す方が問題だろうと深慮した上で、
通常の扱いとしたのだったが。

 けれど、
 大々的に表向きにはしなかったものが一つあり。

ある意味での関係各位、ちょいと意外な被害者とそれから、
それこそ極秘の秘密裏事項、
捜査や逮捕に貢献した格好での“当事者”たちが集中していたのが、
都内でも屈指のお嬢様学校だというから穿ってる。
被害者になったお人は、たまたま災難に遭ったようなもので、
何も覆い隠してしまう必要はないのだけれど。
賠償的な損害云々よりも、メンタルな部分への被害が甚大なのが問題で。
手を挙げなかった、怪我を負わせなかったからといって、
それが暴力には当たらぬとは言えないケースなんてのは、
DVだの虐待だのを引っ張って来なくとも、
今や“特別なんかじゃあない”とする認識が
一般的にも通じるようになっているほどではあるものの。
じゃあ 法的な整備は? 捜査上の取り扱い注意の幅は?となると、
まだまだ現状へちいとも間に合っとらんぞ警察各位というのが悲しき実態。
判っているけど何ともし難いと、
歯咬みなさってる担当者の方々もおいでには違いないのだろうが、

 『ホント、何とか出来ないもんでしょかね。』
 『民意はいつも後回しですよ。
  ゆとり教育なんてのがいい例だ。』
 『そうそう。
  導入に時間が掛かったのと同じほど、
  こりゃあんまり芳しくないぞという声が上がっての、
  改めての再編に乗り出すのがまたぞろ遅い。』
 『3年掛かりゃあ、中学生はもう卒業しちゃいますのにねぇ。』

民意といえばというか、裁判員裁判も。
そうそう、
何であれって凶悪な殺人事件の裁定を民間人に任せるのでしょうかね。
もっとこう、公害訴訟とか区画整備への訴訟とか、
民事扱いだけれど原告は国や都道府県っていうようなものとか、
法的裁断だけ持って来るのは情がなさすぎないかって裁判の二審とかにこそ、
民意も反映させればいんですのにねぇ、と。

 「…さすがは、
  中身は私らと変わらぬ世代だって証しでしょうかねぇ。」
 「……さてな。」

堂々と割り込んで来ての言いたい放題が、
単に口だけ“はしっこい”というご意見ばかりじゃあなくて。
世の中とはそういうもの、正道通りにはなかなかゆかぬとか、
結構 練れた理解もあってのこと、
見目の瑞々しさと裏腹、ずんと達観してもいる、
花の女子高生三人娘のお声が聞こえ…たような気がして。
ついつい渋面を作ってしまった、警察関係者各位であったりし。

 いっそのこと、特別機動隊とか隠密捜査隊とか美少女愚連隊とか、
 正式公開はしないままの地下組織としてながら、
 公式の部署にしちゃえばどうすかね。
 制約も緩くしての仮採用で。

 おいおい。

本来だと、
微妙に自分たちが手掛ける守備範囲のそれじゃあなかった事件だが、
関係者とその居場所が、
それこそ“微妙に”捨て置けない守備範囲の代物だったので。
アンテナに引っ掛かったのへ、
素早く対処した佐伯刑事が警部補殿へと御注進に至り、
先のような対処へと運んだのが、
某女学園の制服ネオク流出事件だったワケで。
公安や警備部といった“その筋”では、
政府要人の子女も多数通うことで有名な学校。
よって、扱いによっちゃあ
冗談抜きにセンセーショナルな話題にだって成りかねなかったが、
同時に抱えていた大量の別件も全部吐き出させ、
セーラー服も被害品の中にあったなんて
誰か気がついた?というほど印象を薄めさせ。
そんなお題目なぞ付くはずがないほどの
その他多数という端っこへ追いやった、警部補殿らの手腕は物凄く。

 お転婆で融通の利く
 特別な助っ人がいたから…という順番だと思うなかれ。

確かに、その初動捜査の段階で
手っ取り早い“超法規的手段”を取ったがゆえに、
あっと言う間に片付いたのであり。
要領悪くも状況をなかなか飲み込めず、
じくじくとこねくり回したその末に、
選りにも選って被害者を必要以上につついたその挙句、
さしたる量刑もつかない断罪しか出来ませなんだ…という
残念な運びにならなんだのではあるけれど。

 裏技を使えばそれへの補填もまた必要で。

人ひとり逮捕するからには、
その権利を拘束するに足るだけの色々が必要で。
何故こんな事実が明らかになったのか、
何故こやつが容疑者に浮かんだのかという点へ、
水も漏らさず、しかも合理的な、
証拠なり推論なりを構築しなくちゃならないのであり。
ズルとまでは言わないけれど、
前倒ししたことへは
それがほぼ執行と同時に了承されたことだという関係書類が必要だったり、
もうもう 色んな辻褄合わせの腕前も必要となるのだ、お客さん。

 「…勘兵衛様がそうだというなら、
  あんまり素直に喜べませんて、そのお言いよう。」

そこへ非難なんてされてもねぇ。
実は何につけ周到辣腕、
どんな搦め手でも粘って見つけて何とかしちゃえる。
だって言うのに、
お惚けもお上手なおタヌキ様だってのは、
今更な話じゃないですか。
(苦笑)

 そして、きっとそれとの相殺なのだろう。
 ご本人の身の処し方は、どんだけ後回しにしなさるものかと、
 これまた征樹殿が呆れるほどに、実直すぎての不器用なところも。
 かつての彼と少しも変わらないものだから。

せっかく、かつての恋女房との再会も叶ったというに。
前にも増しての別嬪で、しかもしかも女の子だっていうのにね。
性懲りもなく仕事優先を通して放ったらかしてる爲體(ていたらく)。
楽を選べとまでは言わないが、
もうちょっと要領よくてもいいんですのに。

 “いくらおシチちゃんが
  理解ある子だからって言ったってねぇ。”

あんまり上等とは言えぬコーヒーを啜りつつ、
カップの陰にて ついの苦笑が浮かんだ征樹殿だったりするのであった。





     ◇◇◇



日は溯っての“聖なるばらの反乱”の午後。
(おいおい)
何やかやに翻弄されたこともあり、
うっかり半分ほどしか復習出来ないでいた実力テストに、
仲のいいお友達と、
揃って…あくまで内心にて悲鳴を上げた白百合さんだったが。
そんな悲鳴を黄色く塗り替えて余りあるほどの、
それは嬉しいメールが届いたもんだから。
うあどうしようと落ち着きをなくしつつも、
いつになくの超特急で帰宅すると、
大急ぎで着替えてのシャワーを浴び、
服は コスメは デオドラントはと、
あたふた支度して出掛けた先はといえば……。



 「……勘兵衛様。」

急な呼び出しじゃああったれど、
浮いた話じゃあないのは心得ておいでの、
こういうところもよく出来たお嬢さん。
メンズっぽい、
襟のかっちりした白シャツをオーバーブラウス風に羽織り、
下はシンプルなカラータンクトップと
同じ色合いのセミタイトスカートという、
あまりはっちゃけない、大人っぽいいで立ちで、
藤の這わされた垂木屋根が涼しげな、
四阿風のベンチにて待っていた七郎次であり。

 「待ったか?」
 「いいえ。」

結構な気温だというのに、小汗もかかずの涼しいお顔をほころばせ、
かぶりを振る所作も品があっての涼やかで。

 「こたびは色々と融通を利かせていただいてありがとうございました。」

まずは、彼女の方からそれを持ち出し、恐縮そうに頭を下げる。

 「本来だったら、よほどの事情でもない限り、
  公判が済んでの結審してからでなきゃ、
  証拠品は返却されないのでしょうに。」

置き引きに持ってかれた、しかも当人のものじゃあない制服というところが、
こたびの騒動の、お嬢さんたちにとっての扱いの難しいポイントで。
犯罪者として吊るし上げねばならぬ奴でも、
公平正当に裁かれる権利はあろうし、
それに、彼女らにすれば一番許せぬ罪を、
だけれど無かったことにさせるのも癪。
ならば、その行為への証拠品も
公判終了まで検察が管理しておかねばならぬのだろうところだが。
そうは言っても、
傷ついてるお友達の繊細な心、どうにかして支えたいとするならば、
奪われたブツを一刻も早く返してあげることが何よりだろうと、

 「言い出す前に、全て揃えて差し出して下さって。」

夏かと思うほどの好天で、
石作りのあれこれを白く晒す陽は凶悪なほど。
だがまだ木陰は涼しくて、
新緑の並木をそぞろ歩けば、木洩れ陽がちらちかと降って来て、
今日は束ねておいでの白百合さんの金の髪、
白く弾けるほど輝かせる悪戯を繰り返す。
帽子もなくて暑くはないかと、
ついつい気を逸らしているかのようなこと、
思ってしまった勘兵衛を振り仰ぎ、

 「気を回していただけて、わたしたち本当に嬉しくて。」

なに、他の窃盗への被害者らが
存外の多数“証言に行く”と言うてくれておってな。

 「制服に関しては、盗品その他で引っくるめて済みそうだと。」

担当検事がこそりとそう言ってくれたとか。
あくまでも自分の手柄ではないと言う勘兵衛なのへ、

 「…ありがとうございます。」

いやいやそんなと何か言葉を重ねたとて、
この口八丁な警部補様にはすんなり通るまいと。
さりげなく素直に、七郎次の側から早めに降参するのもいつものこと。
少し先には誘水路のせせらぎもある自然公苑は、
木陰を織り成す並木沿いに、
自然石だろうか、不揃いな敷石を敷き詰めた遊歩道が連なっており。
まだ陽は高いものの、だからこその暑気避けにだろう、
そぞろ歩きに行き来する人も結構見受けられ。
そんな中で犯罪にまつわる話もないものだが、
一応の報告は必要…というのは表向き、

 『そんなことでしか話題を振れないってのは、どうかと思いますが。』

ふと浮かんだ征樹の苦笑する顔をシッシッと追い払う。
不器用なのは相変わらずで、
職務以外にまでは洞察も駆け引きも使いこなせぬ朴念仁。
無粋で殺伐とした話しか、自分からは持ち出せないのも、
何ともつや消しと判っているが、蓄積がないのだ しょうがない。

 「まあ、重犯罪ではないから
  終身というほども隔離されてはおらぬがな。」

せっかく 丸く収まったねという話をしていたのに、
ついついそんな余計なことを言ってしまう困った壮年だったのへ。

 「大丈夫ですよ。」

そんなの何の憂慮にもならぬということか、
ふふと、含羞みを滲ませつつも朗らかに微笑った白百合さんだけれど。

 “そういえば…”

犯人を袋だたきにしたおりに、
何かおっかないことを わざとらしくも言ってなかったか。
大物政治家が腹を立てての腰を上げ、
まずはその筋のおっかない衆に彼を捜し出させたその上で、
息のかかった警察幹部にも
何としてでも起訴に持ち込んで絞り上げろと命じたとかどうとか。
確かにあの男、そういった脅しを真実本気と受け止めたらしいから、
まずは彼の側から蒸し返しはしなかろということか。

 “初犯なら執行猶予がつくかも知れぬが、
  それでも当分は震えが止まらないに違いない。”

こそこそとしたことしか出来なんだ小悪党。
報復するより我が身大事を取るに違いないのは、勘兵衛にも予想はつくし、

 「もしも万が一、何かしら逆恨みしての、
  かすかにでも覚えていてのこと、
  彼女の身元をほじくり返そうとしようものならば。」

ここではさすがに、
ちょこっと意地悪そうな笑みで口許をにぃと引き伸ばし、

 「他でもない久蔵殿が、
  三木コンツェルンの総力かけてでも
  相手の人生 粉砕することでしょうから。」

 「お……。」

 そうまで怒っておるのか、あやつ。
 はい、それはもう。

ただのお嬢様じゃあないことは、そうでなくとも重々承知の彼らだが、
元のサムライの素性を持ち出すまでもない、
でもでも生半可ではない怒りようなんですよと。
それが、だのに楽しいことでもあるかのように、
くすすと微笑うばかりの七郎次。
水色の瞳を据えた双眸を甘くたわめ、品のいい口許をほころばせ。
頬にこぼれた後れ毛を、自然な所作、優美な指先で耳の後ろへ掻き上げる。

 「……。」

かつての乱世で、臨時の副官として配された、
年の離れた少年兵としての初対面のころよりずっと、
初々しい年頃のはずだのに。

 「?? どうしました?」

ついのこととて視線が外せずにおれば。
気づいてのこと、小首を傾げこそしたものの、
不躾だとヘソも曲げず、無粋だと揶揄もせず、

 何かお話でも?、と

素直に待ってくれての“?”という視線を寄越す君で。
白いお顔に、スズカケだろうかやわらかな梢の陰が揺れる。
捕まえようとして何をか図らずとも、
その身を躱すなんて思いもすまい素直柔順な子で。
だからこそのこと、わきまえとそれから、
自制の念を常に意識しているものの、

 「……っ。」

人目があるかどうかも確かめぬままというのは、
浅慮はなはだしいことではあったが。

 気がつけば…手が伸びており

やわらかで温かい頬へ、
壊れもののように触れたそのまま、
離れ難いとの欲が出た。
いとけない少女への情というよりも、

 「勘兵衛様?」

ほら、こんな折の表情だとか。
少し怪訝そうに、でも、拒みはせずの案じるように。
あくまでも…自分の快不快ではなく、
勘兵衛の側への案じで“待つ”ことが出来る懐ろの深さとか。
こんなに幼い姿へ溯っていても、
その芯にはかつての気丈な古女房が見え隠れする。
今もそれを、薄紙の向こうに微かに見たような気がして。
でも、それは今のこの子には、
他人の投影となってしまうのかなぁと。
柄にもなく余計なことをも思ってしまい、
実際にでも気持ちの上ででも、
彼女へと伸ばしかけた手、中途で止めてしまうのが常でもあるのだが。
どうしたものか、今日はそのまま懐ろへと掻い込んでいた勘兵衛で。

 「えっと…。///////」

小さな少女は、その四肢も嫋やかなまでに柔らかで。
手を放せば逃げ去るかも知れぬが、
このままだと抱き潰しかねないのが そこも恐ろしい。

 「お主が危険な目に遭うかどうか、
  胡亂な輩に付け狙われないかも案じのタネだがな。」

そう、そんなものは口実に過ぎない。

 「お主が何にか、
  侭ならぬことや珍しい至らなさから、
  歯咬みするような口惜しい想いをするのもまた、
  こちらの力及ばぬを思い知らされる。」

今回の騒動、事情を聞けば聞くほどに、
この自分では無理だっただろう難しいことを、
この子らならではな繊細さが混迷の道を紐解き、
臆病なお友達をしっかと守ったのだなぁと、
思い知らされ、感に入る。
多大な力に対し、狡猾さで巧みに付け入る術は知っているが、
それは脆くも儚い心の持ち主を、
慎重に庇いつつ守るという根気のいることへも、
自分から手をつけての頑張ったとは。
公的な裁きの仕組みを思えば、隠し通すは難しいと判っていながら、

 気を緩めることなく、投げ出しもせず、

敵対者へは慣れない暴言も吐いて見せつつ、
一方で当事者へは深い懐ろ差し出すことで、完遂せしめた功労と。
自分は では何を手伝えたのだろうかと思うと、
そちらの方向へは何も持たない、荒くれた男でしかないことと。

 “これでは 敵わぬ。”

守りたいなぞとは滸がましい。
壊さぬように そおと扱えない武骨さが恨めしい。
触れられないのは傷つけかねないからで、
それはすなわち、欠けた者との自覚ゆえの逃避にすぎぬ。
どうしてだろうね、この子へは、自信なんて持てやしない。
敵わないばかり、縋りたくなるばかりなの、
暴かれたくはなくての意地を張ってただけなのかも知れぬ。

 あの乱世の頃から既にもう、
 そういう相性なのだということ
 認めておればよかったのかもしれないと。
 後悔はキリがない不器用な警部補殿、
 今もまた、
 詮無いことをついつい後悔してしまっておいでのよう。

  初夏の陽に炙っての、
  いっそ昇華させておしまいなさいと

 スズカケの若い梢が、ゆらゆら揺れつつ囁いていた
 皐月の午後のことでした…。








 ● おまけ


不意な呼び出しや、思わぬ拍子に伸ばされた腕は、
でもね、今更この自分を翻弄したくての、悪戯じゃないのは判ってる。
呼び出しが思わぬタイミングばかりなのは、日ごろ本当にお忙しいからだし。
唐突に腕を伸べてくれるのも、
紳士が豹変するのじゃあなくて、単に手を貸して下さっているだけのこと。

 ただ、その間隙を縫うように

思わぬ間合い、何が誘うか降りたのか、
それはそれは唐突に、
雄々しい懐ろの深みへと、掻い込まれることもたまにはあって。
スーツの独特な手触りと染料の匂いと。
肩先から一房ほどこぼれて来た髪からは、
今は吸うところを見ないが、たばこの匂いも微かにし。
何よりも、スーツの襟が塞がぬ胸元、
今でもそれは隆とした筋骨に覆われておいでなのだろう、
堅くて雄々しい胸板の感触に気がつくと同時、

 “…うあぁ〜〜〜。///////”

何で?何だ?何でだろ。
お話の脈絡からは ちと唐突な展開なれど、
もしかして…またまた危ない荒ごとをしでかしたので、
肝を冷やしたぞとお怒りなのかな。
何でどうしてと頭の中がグルグルしだす。
七郎次にとっての彼は、
それはそれは愛しい殿方以外の何物でもなくて。
同じ年頃の娘さんたちが、
キラキラと瑞々しいイケメンや、
凛々しくもスタイリッシュな美形へ傾倒する中。
落ち着きがあってもどこかに稚気が匂い立つよな、
揮発性や脂ギッシュとは縁がなさそうに見えながら、
では、実直かといや、
微妙な悪戯心の見え隠れしていそうで油断も隙もないような。
今更何言ってますかという、おじさまの奥の深さに、
ころりと参った…ってワケでもないはずなんですがね。
(苦笑)

 “…あ。でも、これって。”

  ―― よしか? お主が我を押し殺して辛かったとか、
     そういったこと、後から判ったら儂も歯痒いのだ。

 『…と、ちゃんと言わせなきゃダメですよ?』
 『……。(頷、頷)』

 『おシチちゃん、勘兵衛様には特に察しがよすぎるから。』
 『甘やかしてちゃあいかん。
  シチちゃんにも益はないし、勘兵衛様のためにもならん。』

平八や久蔵殿からのみならず、
征樹様や良親様からまで言われている“叱咤激励”だったけど、

 “うあ〜〜、もしかしてこれ……。///////”

怪我をするだけじゃなく、気持ちの上での消沈もこたえるとのお言葉を、
こんな優しい抱擁と一緒にいただいてしまったよぉ…と。
このまま溶ろけてしまいそうなドキドキのときめきと共に、
嬉しい気遣いまでと、感激もひとしおな白百合さんだったりするのであった。





     〜Fine〜 13.05.22.


  *関西人の血潮が騒いで、
   単なる甘いお話で終われませんでした。(おいおい)

   おまけの“七郎次さんを応援し隊”の皆様のうち、
   ひなげしさんと紅ばらさんは、
   何だかんだ言ってもこっちの隠しごとは下手な本人から、
   ほぼ包み隠さずで聞けてしまえる経緯でしょうけれど。

   「ああでも、俺は林田さんから聞けますし。」
   「俺も、時差は出来ようが ヒサコ様から。」

   えー? あの無口なお嬢さんから話を聞けるのか?お前。
   コツってもんがあるんだよ。

   「お主ら……。」(大笑)

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